「宇宙の加速膨張」という言葉は、一見するととても単純に聞こえます。まるで車のスピードが増していくように、宇宙の膨張に関するあらゆる量が一緒に大きくなっているかのようなイメージです。しかし宇宙論で使われる「加速度」という言葉は、もっと技術的な意味を持っており、そこに意外性があります。
この文脈でいう加速度とは、「宇宙のスケール因子の増え方が加速している」という意味です。スケール因子とは、時間とともに宇宙の大きさがどう変化しているかを表す数です。この数が時間に対して変化するようすを二階微分したとき、その値が正であれば、宇宙論では「膨張は加速している」と言います。
しかしそれは、膨張に関するほかのあらゆる量が一緒に増えていくことを意味するわけではありません。実際、この話を混乱させる要因のひとつが、「宇宙が加速膨張していても、ハッブル・パラメータ自体は時間とともに小さくなりうる」という点です。
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重要な違い:スケール因子とハッブル・パラメータ
ハッブル・パラメータとは、ある時刻において宇宙がどれくらいの速さで膨張しているかを表す量です。定義としては、「スケール因子の時間変化率をスケール因子自身で割ったもの」になっています。
ここが話の核心となる「ねじれ」です。加速膨張とは「スケール因子の増え方が加速している」ことを意味しますが、「ハッブル・パラメータが増えている」ことを意味するとは限りません。
観測からは、およそ q ≈ -0.55 という減速度パラメータが好ましいとされています。減速度パラメータが負であることは、膨張が加速していることに対応します。しかしこの値であっても、ハッブル・パラメータが時間とともに減少していることを示しています。増加ではなく減少です。
つまり、次の2つの主張は同時に真でありえます。
- 宇宙は加速的なしかたで膨張している
- ハッブル・パラメータは時間とともに小さくなっている
これが矛盾して聞こえるのは、「膨張を表すあらゆる数値」が同じものを測っているかのように考えてしまうからです。実際には、それぞれ別のものを測っています。
この状況をイメージしやすくするには、あるひとつの遠方銀河に注目してみるとよいでしょう。空間自体が膨張し続けているため、その銀河の後退速度は時間とともに大きくなりえます。つまり、私たちから見た距離が増えていく速さが、だんだん大きくなっていくのです。
それでもなお、「速度と距離の比」は下がりうるのです。
これは、ハッブル・パラメータの数式によって強調されている違いそのものです。記事では、減速度パラメータがおよそ -0.55 のとき、「スケール因子の加速度は正である一方で、ハッブル・パラメータの時間微分は負になる」と説明しています。
要するに、特定の銀河はどんどん速く遠ざかっていける一方で、「距離あたりの速さ」を表すハッブル・パラメータは減少し続ける、ということです。記事では別の言い方として、「一定の半径の球面を横切っていく銀河たちは、時間が経つほどゆっくりと通過するようになる」とも表現しています。
こうした理由から、「加速する宇宙」はとても直感に反するものとなっています。日常の言葉では「ひとつのスピードが単純に上がっていく」様子を思い浮かべがちですが、宇宙論では互いに関連はあるものの、足並みがそろって動くとは限らない複数の量を区別しているのです。
この奇妙な結果はどうやって見つかったのか
宇宙の加速膨張が発見されたのは1998年で、2つの独立した研究グループ――Supernova Cosmology Project と High-Z Supernova Search Team――によるものでした。
彼らの手法はIa型超新星に依存していました。Ia型超新星とは、安定限界を超えて爆発した白色矮星であり、ほぼ同じ固有の明るさを持つことが重要です。つまり真の光度を一定にそろえられるのです。天文学では、このような天体を「標準光源(標準ろうそく)」と呼びます。
標準光源が価値あるのは、「本当の明るさがわかっていれば、どれくらい暗く見えるかから距離がわかる」からです。天体が遠くにあるほど、私たちから見た明るさは暗くなります。
研究者たちは、これら超新星までの距離と、それらの宇宙論的赤方偏移を比較しました。赤方偏移とは「光が放たれてから現在までに宇宙がどれだけ膨張したか」を測るものです。ハッブルの法則によって、より遠い天体ほど速く遠ざかっていることはすでに知られていました。宇宙論に衝撃を与えたのは、「減速している宇宙」で予想されるよりも、遠方の超新星がずっと遠くに見えたことでした。
赤方偏移の大きいIa型超新星について、測定された距離は「宇宙定数がなく物質密度の低い宇宙」で予想される値と比べて、平均で10〜15%ほど大きかったのです。これは「宇宙が現在の大きさに達するまでに、非加速モデルが予測するよりも長い時間がかかった」ことを意味します。そこから導かれた自然な結論が、「膨張は途中から加速してきた」という解釈でした。
なぜそれほど意外だったのか
この発見以前、宇宙論では「膨張は重力のせいで減速しているはずだ」という期待が一般的でした。もし宇宙が物質で満たされているなら、物質同士の重力的な引き合いは、膨張を抑え込むブレーキとして働くはずだからです。
この期待はあまりに強く、物理学者たちは「減速度パラメータ q0」という量をわざわざ導入し、「膨張が減速している度合い」を表そうとしました。しかし観測が示したのは、このパラメータが負であるという事実でした。
驚きは、「宇宙が膨張している」という点そのものではありません。それはすでに知られていました。驚くべきだったのは、「物質だけでは膨張を一方的に減速させてはいない」ということだったのです。
超新星以外の証拠
超新星の観測は最初の大きな証拠でしたが、それだけが根拠として残されたわけではありません。
その後の確認的な証拠として、バリオン音響振動(BAO)や銀河のクラスタリング解析からの結果があります。
バリオン音響振動とは、宇宙初期に光子と物質が高温プラズマとして混ざり合っていたころに残されたパターンをたどるものです。高密度領域は圧縮と膨張を繰り返し、音波のような振動を生み出しました。ビッグバンから約38万年後、光子が物質から分離(デカップリング)したとき、この過程は「音の地平線」と呼ばれる特徴的なスケールを宇宙に刻みつけました。
天文学者たちは、異なる赤方偏移で銀河がどのように集団をつくっているかを観測することで、このスケールを「標準の物差し」として利用できます。銀河の相関関数において、およそ100 h−1メガパーセク付近に見られるピークは、この描像と一致しており、加速膨張を支持する証拠となっています。
銀河団の観測もまた、物質密度が低く、暗黒エネルギー成分がゼロではないことを示しています。これら複数の証拠が組み合わさることで、「宇宙の加速」は実在する現象であるという結論が一層強固になっています。
有力な説明:ダークエネルギー
一般相対性理論の枠組みの中での標準的な説明は、正の宇宙定数 Λ で表される「ダークエネルギー」です。
ダークエネルギーが重要なのは、「負の圧力」を持ち、空間全体に比較的一様に広がった「斥力的なはたらき」をするからです。宇宙の加速膨張が起こるためには、状態方程式パラメータ w が -1/3 より小さい必要があります。もっとも単純な場合、ダークエネルギーは宇宙定数そのものであり、そのとき w = -1 となります。
この最もシンプルな絵が、宇宙論の標準モデルである「ΛCDMモデル」に組み込まれています。ここでは宇宙定数 Λ と冷たい暗黒物質(Cold Dark Matter、CDM)が組み合わされています。
記事によれば、宇宙が「ダークエネルギー優勢」の時代に入ったのは、およそ50億年前と考えられています。宇宙が膨張するにつれて、物質の密度はダークエネルギーの密度より速く減少していきます。もしダークエネルギーが宇宙定数であれば、その密度は時間が経ってもまったく変わりません。時間とともに、そのことがダークエネルギーに宇宙膨張を支配させるようになるのです。
技術的な話から見えてくる、人間的な教訓
「加速する宇宙」は、科学の世界で使われる言葉が、日常的な意味よりもずっと鋭く定義されていることを思い出させてくれます。日常会話で「加速」と聞くと、たいていは「ひとつの数値がひたすら上昇していく」イメージがつきまといますが、宇宙論の描く姿はもっと繊細です。
ここでの加速度は、「スケール因子が時間とともにどう変化するか」を指しています。その結果として、「遠方銀河の後退速度はどんどん大きくなっているのに、ハッブル・パラメータは下がっていく」というような宇宙が実現しうるのです。
人々が「宇宙が加速している」と言うとき、それはあらゆる宇宙的な「スピードメーター」が同じように上昇している、という意味ではありません。もっと厳密で、ある意味ではもっと魅力的なことを指しています。宇宙膨張という織物そのものの性質が、途中で変わってしまった――そう言っているのです。
だからこそ、これは現代物理学におけるもっとも大きな概念上のねじれのひとつとなっています。宇宙は本当に加速している――ただし、私たちの直感がまず思い描くような、単純な意味でそうなっているわけではないのです。









