宇宙の加速膨張

現代宇宙論の長いあいだ、見通しはごく単純なものだと思われていました。宇宙はビッグバンで膨張を始め、その後は重力のはたらきによって徐々に膨張スピードが落ちていくはずだ、という考えです。

それは直感的にも筋が通っているように見えました。物質は物質を引きつけ合うので、銀河やガス、ダークマターで満たされた宇宙は、地球の重力に逆らって上空に投げ上げられた物体のようにふるまうはずです。長いあいだ離れていきはするものの、その速度自体は次第に落ちていく、と想像されたのです。

ところが、その見通しは天文学史上最大級の「意外な結果」によって覆されました。

1998年、ふたつの独立した研究グループ――スーパー・ノヴァ・コスモロジー・プロジェクトと High-Z Supernova Search Team――が、宇宙の膨張は減速しているどころか、加速しているという証拠を見つけました。つまり、遠方銀河は単に私たちから遠ざかっているだけではなく、その遠ざかるスピードが時間とともに増しているのです。

この発見は宇宙の標準的な姿を根本から塗り替え、冷たいダークマターと、しばしばダークエネルギーと結びつけられる宇宙定数を含む、現代の標準宇宙モデル「ΛCDM(ラムダ・シーディーエム)モデル」の確立に大きく貢献しました。

宇宙の膨張を記述する方程式を用いることで、宇宙論の研究者たちは、宇宙全体のエネルギー密度と膨張のふるまいを結びつけてきました。この枠組みでは、物質と放射が、宇宙のスケール因子が時間とともにどう変化するかに影響します。

スケール因子とは、宇宙の大きさを現在の大きさと比較して表すための量です。過去にスケール因子がより小さかったということは、その時代の宇宙も今より小さかったことを意味します。膨張が減速している宇宙でも、広がり続けはしますが、そこには重力による「引き戻し」のような効果が働きます。

この見方はあまりにも当たり前の前提として受け入れられていたため、物理学者たちは「減速パラメータ」と呼ばれる量まで導入していました。その名前そのものが当時の意識を物語っています。彼らは、膨張の減速こそが自然な帰結だと考えていたのです。

しかし観測結果は、その絵をひっくり返しました。実際に測定された減速パラメータは負の値で、それは膨張が減速ではなく「加速」していることを意味していました。

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転機をもたらした Ia 型超新星

決定的な証拠を与えたのが、Ia 型超新星です。

Ia 型超新星とは、白色矮星が安定限界を超えて爆発した天体です。重要なのは、その本来の明るさ(固有光度)を標準化できる点で、いわゆる「標準光源」として扱えることです。

標準光源とは、本当の明るさが既知、あるいは推定できる天体のことです。天文学者は本当の明るさをもとに、地球から見た明るさと比較することで距離を求められます。予想より暗く見えるなら、その天体はより遠くにあるはずだ、と判断できるわけです。

研究者たちは、選んだ領域を繰り返し撮像して新たな超新星を探し出し、その後追観測でピーク時の明るさを測定しました。その明るさから「光度距離」と呼ばれる量を計算します。これは、光が空間を伝わり、宇宙が膨張するなかでどれだけ減衰するかを踏まえた、宇宙論的な距離の表し方です。

さらに彼らは、超新星の光に含まれるスペクトル線を調べて赤方偏移を測定しました。

赤方偏移は、その光が放たれてから現在までのあいだに、宇宙がどれだけ膨張したかを表します。空間が広がると光の波長も引き伸ばされ、より長い、赤い側の波長へとシフトします。赤方偏移が大きいほど、光が旅をしてきたあいだに宇宙はより大きく膨張したことになります。

これは、「遠い天体ほど速く遠ざかっている」とするハッブルの法則とも結びつきます。

超新星が示したもの

近くにある超新星の場合、距離と赤方偏移の関係はほぼ直線的で、これはハッブルの法則とよく一致します。しかし、より遠い距離になると、宇宙膨張の歴史そのものが効いてきます。もし膨張率が時間とともに変化しているなら、赤方偏移と距離の関係は単純な直線から外れてくるはずです。

そして、まさにその通りの結果が得られました。

遠方の Ia 型超新星は予想より暗かったのです。これは「減速膨張する宇宙」モデルで期待されるよりも遠くにあることを意味します。アダム・リースらの研究によると、高赤方偏移の超新星は、宇宙定数を含まない低物質密度宇宙モデルの予測よりも平均で 10〜15% ほど遠方に位置していました。

この結果こそが決定的な証拠でした。

なぜ「より遠い」という事実が加速膨張を意味するのでしょうか。宇宙が現在加速しているとすると、過去の膨張率は今より低かったことになります。すると、「小さかった宇宙が現在の大きさにまで成長する」のに、加速しないモデルより長い時間がかかったことになります。膨張に費やされた時間が長いぶん、光が旅をする時間も長くなり、その超新星はより遠くにあるように見えるのです。

具体例として、赤方偏移 z = 0.5 の超新星を考えましょう。この値は、爆発が起きたとき宇宙の大きさが現在の 3 分の 2 だったことを意味します。加速膨張する宇宙では、スケール因子が 2/3 から現在の値(1)へと成長するのに、膨張率が一定の宇宙よりも長い時間を要します。その間、光はより長い距離を進むため、超新星はより暗く観測されるのです。

「加速膨張」が意味していること

「加速膨張」という言葉は、そのまま聞くと少し誤解を招きかねません。

専門的には、加速膨張とはスケール因子の時間に関する 2 回微分が正であることを意味します。言い換えれば、宇宙の大きさが増していく過程で、その膨張が時間とともに加速している、ということです。

しかしこれは、ハッブル・パラメータ(距離あたりの膨張率)が増えていることと同義ではありません。実際の観測は、減速パラメータがおよそ -0.55 であることを示しており、これはスケール因子が加速している一方で、ハッブル・パラメータ自体は時間とともに減少していることを意味します。

イメージしやすく言えば、「とても遠くのある銀河ひとつをとると、その遠ざかる速度は時間とともに増えている」が、「速度を距離で割った比(ハッブル・パラメータ)」はむしろ下がっていく、という状況です。つまり、宇宙が加速膨張していても、それに関連するすべての量が増え続けるとは限らないのです。

ダークエネルギーと新しい標準像

この加速膨張を説明する最有力候補が、ダークエネルギーです。

ダークエネルギーとは、この宇宙規模の加速を引き起こしている正体不明の成分に与えられた名前です。その最も重要な性質は、「負の圧力」を持ち、空間全体にわりと一様に分布していると考えられている点です。宇宙論の方程式において、十分に負の圧力を持つ成分は、膨張を加速させることができます。

ダークエネルギーの最も単純なモデルが、宇宙定数(ラムダ、Λ)です。この場合、ダークエネルギーは真空のエネルギーのようにふるまい、状態方程式の値 w は -1 になります。

こうして、宇宙定数と冷たいダークマターを組み合わせた ΛCDM モデルが得られます。これは、多くの観測とよく整合しつつ比較的シンプルに宇宙の歴史を記述できるため、宇宙論の標準モデルとして広く用いられてきました。

この描像によると、宇宙はおよそ 50 億年前にダークエネルギー優勢の時代に突入し、その頃から現在に続く加速膨張が本格的に始まったと考えられています。

証拠はひとつではない

超新星による結果は非常に劇的でしたが、それが唯一の手がかりというわけではありません。

バリオン音響振動や、銀河がどのように集団をつくるかの解析からも、加速膨張を支持する証拠が得られています。

バリオン音響振動とは、初期宇宙で見られた「揺らぎ」の名残です。当時、光子と物質は高温のプラズマ状態で結びついており、密度の高い領域では圧縮と膨張が繰り返され、音波のようなパターンが生まれました。ビッグバンからおよそ 38 万年後、光子が物質から切り離されたとき、その振動パターンは物質の分布に「好んで現れるスケール」として刻み込まれました。

現在の天文学者は、銀河の分布を詳しく調べることで、このスケールを探し出します。相関関数のピークとして現れる、およそ 100 h−1 メガパーセクという特徴的な銀河間隔が、かつての音の地平線(サウンドホライズン)に対応しています。このスケールをさまざまな赤方偏移で比較することで、宇宙モデルを検証でき、その結果は加速膨張を支持しています。

銀河団も重要な証拠を与えます。銀河団の質量関数――ある質量以上の銀河団がどれだけ存在するか――を異なる赤方偏移で測定することで、宇宙論パラメータを推定できます。その結果、物質の密度が比較的低く、かつダークエネルギー成分が 0 ではない宇宙が好ましいことが示されています。

この発見が宇宙論を変えた理由

1998 年の結果が驚きをもって受け止められたのは、それまでの長年の予想を真逆から覆したからです。重力がいつか必ず「勝利」して膨張を押しとどめると期待されていたのに、実際には宇宙の大局的なふるまいを支配していたのは、むしろ重力に対して「斥力的」にふるまう何かだったのです。

この発見の重要性はきわめて大きく、後に両超新星チームの 3 人の研究者にノーベル賞が授与されています。

また、この結果は宇宙の未来像に対する考え方も一変させました。ダークエネルギーが宇宙定数としてふるまうモデルでは、空間が広がるにつれて物質の密度はどんどん薄まっていく一方、ダークエネルギーの密度はほとんど変わりません。時間がたつほど、ダークエネルギーの支配力はますます強まっていきます。

つまり、遠い未来の宇宙は膨張を続け、やがて指数関数的な成長に近づいていくと考えられます。そのようなシナリオでは、宇宙マイクロ波背景放射はさらに長い波長・低い強度へと引き伸ばされ、遠方宇宙の姿は次第に観測しにくくなっていきます。

この物語の「ひねり」はこうです。宇宙についての最重要な発見のひとつは、「遠くの爆発する星が、予想より暗かった」という観測から生まれました。そのかすかな暗さこそが、宇宙がただ惰性で広がっているのでも、減速しているのでもなく、むしろスピードを上げていることを教えてくれたのです。

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