彗星:噴き出すジェットが回転させ、世界を砕く

地球から見る彗星は、繊細で幻想的に見えます。淡く光るコマ(昏黄)、長く伸びる尾、夜空を横切る幽かな光の弧――。ところが接近して観測すると、彗星は意外なほど激しい天体です。彗星が太陽に近づくと、熱によって表面の弱い場所からガスと塵が噴き出します。これらの噴出は天然のスラスターのように働き、固体の核をねじり、場合によっては彗星そのものを引き裂く原因にもなります。

太陽光、噴き出すガス、そして構造的な脆さ――この組み合わせによって、彗星は太陽系でも最もダイナミックな天体のひとつとなっています。ジェットは回転を変え、表面を作り替え、さらには劇的な崩壊のきっかけにもなります。

彗星の中心にあるのが「核」と呼ばれる固体部分です。彗星核は、岩石や塵、水の氷に加え、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、アンモニアなどの凍ったガスが混ざり合ってできています。そのため、彗星はよく「汚れた雪玉」あるいは観測結果から着想された「氷の泥玉」と形容されます。

核はたいてい暗く、反射率が低いのも特徴です。入射した光のごく一部しか反射しないものもあり、太陽系で最も暗い天体のひとつに数えられます。表面は乾燥した塵や岩で覆われていることが多く、内部に氷をたくさん抱えていても、外側の殻がそれを隠しています。この外殻は太陽光を効率よく吸収し、内部の氷を温めます。

彗星核は小さく質量も小さいため、自ら重力で綺麗な球形にまとまることはほとんどありません。その代わり、いびつな形をしているのが普通です。この“いびつさ”が重要です。彗星が太陽光を浴びながら自転すると、形が不均一なため、温まり方にもムラが生じます。ある場所は比較的冷たいままでも、別の場所は十分に温まってガスを放出するのです。

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ジェット:宇宙空間で噴き上がる彗星の間欠泉

彗星のもっとも印象的な現象のひとつが「ジェット」です。ジェットは、内部で新たに発生したガスが、核表面の弱い部分から外へ吹き出すことで生じます。地上の間欠泉にたとえられることが多く、ガスと塵が一気に宇宙空間へと噴き出していきます。

この現象を駆動しているのが「昇華」です。昇華とは、物質が液体を経ずに固体から直接気体へと変化することを指します。彗星では、太陽光で温められた凍結物質が昇華してガスになります。2010年には、ドライアイス(二酸化炭素の氷)の昇華が、彗星核から吹き出すジェットを駆動しうることが報告されました。

これは理論だけの話ではありません。彗星ハートレー2(Hartley 2)の赤外線観測では、こうしたジェットが実際に噴き出し、塵の粒子をコマへ運び出している様子が捉えられました。赤外線は可視光より波長の長い光で、熱に関わる活動をとらえるのに特に有効です。ハートレー2の場合、この観測によって、活発なジェットがどのように核から物質を打ち上げているのかを、研究者たちは直接見ることができました。

コマ:彗星がまとう一時的な大気

核からガスと塵が流れ出すと、「コマ」と呼ばれる巨大で極端に薄い大気が彗星のまわりに形成されます。核そのものは小さくても、コマはときにとてつもなく大きく広がり、その直径は数千キロから数百万キロにも達することがあります。

コマの主成分は水と塵です。彗星が太陽から3〜4天文単位以内に入ると、水が揮発性物質全体の最大90%を占めることもあります。天文単位(AU)とは、地球と太陽の平均距離を基準とした長さの単位です。

コマは地球の大気のように安定して存在しているわけではありません。核からの噴出によって常に供給され続け、日々作り替えられています。そこへ太陽光や太陽風が作用し、放出された物質が彗星の尾の形成へとつながっていきます。とはいえ、尾になる前の物質はまず、核の周囲に生じる局所的な雲――すなわちコマの一部として存在します。そして、そのコマを育てる主要な仕組みのひとつがジェットなのです。

ジェットが彗星に回転を与えるしくみ

ジェットは、彗星を「活動的に見せる」以上の働きをします。噴き出すガスと塵は、核そのものを物理的に押し動かします。ガスや塵が一方向へ噴出すると、その反作用として核は反対向きに力を受けます。噴射位置が核の中心からずれていれば、「トルク」と呼ばれるねじりの力が生じ、核の自転状態が変化します。

彗星では、これによって自転速度が変わったり、自転軸の向きそのものが変化したりします。しかも彗星核は不規則な形をしていて脆いため、このねじれは大きな意味をもちます。頑丈な岩塊というより、氷と塵と岩片がゆるくまとまった“寄せ集め”に近いからです。ジェットによる推力を何度も受け続けることで、長期的には核内部にストレスが蓄積していく可能性があります。

この一連の現象の出発点にあるのが「不均一な加熱」です。太陽光は、自転する彗星のすべての場所を同じように温めるわけではありません。いち早く温まるのは一部の領域で、そこからガスと塵が弱い部分を通って噴き出します。こうした活動的な領域が、やがては天然のスラスターのように働き、ゆっくりと核の自転を加速させていくのです。

回転から崩壊へ

ジェットは単に自転を少し変えるだけではありません。場合によっては、核を分裂させる一因にもなります。

彗星が崩壊すると考えられている理由はいくつかあります。熱ストレス、内部ガスの圧力、衝突などです。熱ストレスとは、加熱と冷却を繰り返すことで、材料に負荷がたまり、ひび割れの原因となることを指します。また内部にたまったガスの圧力が高まると、表面を押し破って物質を外へ押し出すことがあります。ジェットはこれらと密接に関係しています。なぜなら、ジェットはガスが逃げ出している直接の証拠であり、核が太陽熱に一様には反応していないことを示しているからです。

実際に分裂が観測された彗星もあります。彗星の崩壊は、これらの天体が構造的に弱いことを物語るもっともわかりやすい現象です。何度も加熱され、ガスを噴き出し、自転させられ、ストレスを受け続けた核は、いつまでも形を保てるとは限りません。

このエピソードの核心にあるのは、彗星科学をとびきりドラマチックにする要素そのものです。美しい活動を生み出すジェットが、同時にその元となる天体を不安定にしてしまう――その両面性です。

シューメーカー・レヴィ第9彗星:バラバラになった彗星

彗星の脆さを象徴する最も有名な例のひとつが、シューメーカー・レヴィ第9彗星(Shoemaker–Levy 9)です。この彗星は1993年に発見されましたが、その前の1992年7月、木星への接近通過時にすでに引き裂かれていました。ひとつの核であるはずの天体が、いくつもの破片が連なった“列車”のような姿になっていたのです。

その後、史上まれに見る光景が訪れます。1994年7月の6日間にわたり、その破片群が次々と木星の大気へ突入しました。これは、太陽系内で二つの天体が衝突する様子を人類が初めて直接観測した出来事でした。

シューメーカー・レヴィ第9彗星は、脆い彗星が引き裂かれたあと、その破片がどのようにドラマチックな運命をたどるのかを、きわめて貴重な形で見せてくれました。彗星の崩壊という抽象的な概念が、目の前で起きる現象として実感できるようになった瞬間です。ひとつの光る来訪者を見るはずが、科学者たちは巨大惑星へ次々と落ち込む破片の列を観測することになりました。

ほかにもある、分裂した彗星たち

もっとも有名なのはシューメーカー・レヴィ第9彗星ですが、分裂した彗星はそれだけではありません。彗星の分裂現象は、これまでに何度も観測されています。

大きな崩壊が起きた例として、1846年の3D/ビエラ彗星が挙げられます。この彗星は、近日点――軌道上で太陽に最も近づく位置――通過の際に2つの部分に割れました。両方の破片は1852年にも別々に観測されましたが、その後は姿を消します。その後、1872年と1885年には、この彗星が見えるはずの時期に、壮大な流星群が出現しました。

73P/シュヴァスマン・ヴァハマン彗星(73P/Schwassmann–Wachmann)も、1995年から2006年にかけて分裂を起こした彗星です。また、もともとひとつの親彗星が分かれた“きょうだい彗星”と見られるケースもあります。たとえば42P/ノイミン彗星(Neujmin)と53P/ファン・ビースブルック彗星(Van Biesbroeck)は、かつて共通の天体だったものが分裂してできた破片だと考えられています。リラー彗星族(Liller family)と呼ばれるグループも、過去の分裂イベントに由来するとされる一例です。

なかには、近日点通過の最中に崩壊した彗星もあります。大彗星として知られるウェスト彗星(West)や池谷・関彗星(Ikeya–Seki)がその代表です。これは理にかなっています。近日点付近では加熱が非常に強まり、ガスの噴出量が急増し、物理的なストレスが一気に高まるからです。

太陽は「芸術家」であり「破壊者」でもある

彗星を視覚的にドラマチックな存在にしている主役は、何より太陽です。太陽放射は核を温めてガスを噴き出させ、コマを照らし、尾の形成をうながします。しかし同じ太陽加熱が、彗星にとっては破壊的にも働きます。

揮発性の軽い物質が飛び去ると、あとにはより暗い表面物質が残り、太陽光をさらに吸収しやすくなります。その結果、特定の場所で加熱が一段と強まり、噴出も局所的に激しくなります。核が脆く、亀裂が入っているか、ゆるく結合した構造であれば、そうした集中した力によって形が変わったり、最終的には粉々に砕けたりすることもあります。

とくに危険なのが「サングレイザー彗星」と呼ばれる、近日点で太陽のごくそばをかすめるタイプです。小さなサングレイザー彗星は完全に蒸発してしまうこともあり、大きなものでも、何度かの通過には耐えられても、その間に受ける強い潮汐力によって分裂に至る場合が少なくありません。

彗星を理解するうえで、なぜジェットが重要なのか

ジェットは、表面で起きている“見た目の花火”にとどまりません。彗星の内部や、その下に隠された物質が何をしているのかを教えてくれる手がかりです。「ディープ・インパクト(Deep Impact)」や「EPOXI」といった探査ミッションは、重要な揮発性物質が表面の下に埋もれていて、そこから活動を支えていることを明らかにしました。なかでもハートレー2は、ドライアイスに駆動されたジェットが塵をコマへ運んでいる様子を印象的に示した例として知られています。

こうした観測が重要なのは、見かけと物理を結びつけてくれるからです。彗星の自転、ガスの噴出、コマの広がり、分裂、寿命――それらはすべて互いに関係しています。彗星が物質を失えば失うほど、その構造や軌道は時間とともに変わっていきます。やがて多くの彗星は、揮発性物質のほとんどを失い、暗く不活発な天体へと変わり、小惑星に近い姿になることもあります。

そういう意味で、彗星ジェットは「誕生」と「死」の両方の手がかりです。ジェットは核がまだ活動的である証拠であると同時に、その活動が少しずつ彗星を削り取っていることも示しています。その変化はゆっくり進むこともあれば、きわめて暴力的なかたちで起こることもあります。

動き続ける壊れやすい世界

私たちはつい、彗星の美しさばかりに目を奪われがちです。しかし、その本当の物語は、ストレスと運動、不安定さの物語でもあります。不均一な加熱が、凍ったポケットを噴き上がるジェットへと変えます。ジェットは塵をコマへ放り出し、トルクで核をねじり、ひび割れや分裂に一役買います。そして彗星がついに崩壊するとき、宇宙空間に連なる破片の列から、巨大惑星への衝突まで、きわめて壮観な結果をもたらすことがあります。

次に、長い尾を引いた静かな天体として彗星の絵や写真を見るときは、その内部で起きているかもしれない出来事にも思いを巡らせてみるとよいでしょう。暗くいびつな核が宇宙の間欠泉のようにガスを噴き出し、自身の推力で回転しながら、いつか訪れる崩壊の瞬間へと一歩ずつ近づいているのかもしれません。

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