絶滅と生き残り

絶滅と聞くと、ひとつの種にとっては確かに破局的な出来事です。しかし、地球の歴史というスケールで見れば、絶滅はまったく珍しいことではありません。種は分化(種分化)によって生まれ、絶滅によって姿を消します。この入れ替わりは、生命の歴史を通じてずっと続いてきました。実際、これまで地球上に存在した動植物種のほとんどは、すでに絶滅しています。

この事実は、不安をかき立てると同時に、ある意味では物事をはっきりさせてもくれます。地球上の生命は、永久保存された生き物のリストではありません。新しい種の出現、種の内部での変化、そして古い種の消滅によって、たえず姿を変え続けるプロセスです。絶滅は進化の物語から外れた「例外」ではなく、繰り返し現れる主要なテーマのひとつなのです。

進化は多様な生物相(生物多様性)を生み出しますが、それが永遠の存続を保証してくれるわけではありません。ある種は長く生き延び、環境の変化に適応し、広い範囲に広がるかもしれません。それでも、最終的な行き着く先として絶滅が待ち受けている可能性は高いのです。

それは、進化が「最終ゴール」や守られた安定状態に向かって働いているわけではないからです。種は生態系のなかで暮らしています。そこでは、物理環境や食料、捕食者、競争相手、配偶相手などと相互作用しています。条件が変化すれば、生き残ることはいっそう難しくなります。その変化を乗り切れなければ、その種は消え去ります。

科学者たちは、ゆるやかに続く低レベルの絶滅のパターンと、「大量絶滅」と呼ばれる劇的な絶滅の急増とを区別しています。低レベルの絶滅は、地球上の生命にとって通常の「背景」ともいえるパターンです。新しい種が生まれてくる一方で、別の種が定期的に姿を消していきます。こうした継続的な絶滅の一因として考えられているのが、限られた資源をめぐる競争です。一方の種がもう一方を圧倒すると、劣勢になった種は絶滅へ追いやられることがあります。

大量絶滅は何が違うのか

ときどき、失われる種が一気に増える

大量絶滅は、単に「絶滅する種の数がいつもより少し多い」という程度の現象ではありません。地質学的に見て比較的短い時間のあいだに、種の損失が急増し、多様性が大きく削られる事態のことです。

よく知られた例が、白亜紀–古第三紀境界の大量絶滅で、非鳥類型恐竜の絶滅で有名な出来事です。しかし、さらに深刻だったのが、それより前に起きたペルム紀–三畳紀境界の大量絶滅です。この危機では、海にすむ全ての種のおよそ96%が絶滅したとされています。

96%という数字は、驚異的な大きさです。海洋種とは海にすむ生物種のことですが、そのほぼ96%が失われたというのは、広大なスケールで海の生態系そのものが壊滅的な打撃を受けたことを意味します。絶滅がここまでの規模になると、「生命の樹」から枝を何本か切り落とすどころでは済まず、その全体構造が組み替えられてしまいます。

大量絶滅がとくに重要なのは、ある特定の形質を細かく選別する“精密なフィルター”として働くのではなく、むしろ膨大な多様性を比較的「無差別」に一掃してしまうことがあるからです。そのあと、生き残った系統は急速な進化や種分化を起こすことがあります。

種分化とは、1つの種が分かれて2つ以上の子孫種になるプロセスです。言い換えると、大量絶滅によって多くの既存の形が失われ、その後に生き残ったグループが新しい形へと多様化していくのです。喪失と再生は、生命の長い歴史のなかで深く結びついています。

化石記録が示す「喪失」と「変化」

そして今、私たちはそのただ中にいる

化石記録は、生命が時とともに変化してきた証拠を残しています。そこには、ごく初期の生命の痕跡から微生物マットの化石、さらに後の多細胞生物の化石へと続く「移り変わり」が含まれています。同時に、新しい形が繰り返し現れ、別の形が姿を消していった記録でもあります。

重要なのは、絶滅が現代だけの恐怖ではなく、はるか昔から積み重なってきた出来事だという点です。かつて特定の環境を支配していたようなグループが、まるごと消え去っていることもあります。いま私たちが目にしている生物界は、もっと長いプロセスの「現時点の一幕」にすぎません。

これまで地球上に存在した全ての種のうち、99%以上がすでに絶滅したと推定されています。それでも、生命全体としては存続し続け、多様化し、新たな形を何度も生み出してきました。この対照は、生物学における最も印象的な事実のひとつです。生物圏そのものは長く続いてきた一方で、個々の種が永続することはほとんどない、ということです。

ホロシーン絶滅:進行中の大量絶滅

それでも、地球はまだほとんど未知のまま

古い絶滅危機と現在進行中の危機とのあいだには、大きな違いがあります。現在の危機は、ここ数千年のあいだに人類が地球全域へ広がったことと結びついている点です。

いま進行しているこの出来事は「ホロシーン絶滅」と呼ばれています。人類の拡大にともなって起きている、進行中の大量絶滅と説明されます。現在の絶滅速度は、通常の背景的な絶滅率の100〜1000倍に達すると推定されています。

ここでいう「背景的な絶滅率」とは、大量絶滅のような急激なスパイクがないときに見られる、より一般的な絶滅のペースを指します。したがって、現在の絶滅が「背景の100〜1000倍」と表現されるときは、通常なら想定されるよりもはるかに速いペースで種が消えている、という意味になります。

この進行中の絶滅を引き起こしている主な原因は、いまや人間の活動です。将来、地球温暖化がこのペースをさらに加速させる可能性もあります。

そのことは、現代世界をきわめて特異で、なおかつ深刻な立場に置いています。長い生命史を見れば、絶滅そのものは自然な現象ですが、現在のスピードは「いつものこと」と割り切れる範囲を大きく超えています。それは、ひとつの種──私たち人類──に結びついた、きわめて急激な加速なのです。

絶滅が進化にとって重要な理由

絶滅はふつうのこと——大量絶滅はふつうではない

絶滅は「終わり」に関する話のように見えるかもしれませんが、進化の観点から言えば、「次に何が起こるか」を形づくる力でもあります。

進化の歴史は、おおまかに3つのパターンから成り立っています。新しい種の誕生、種の内部で起こる変化、そして絶滅です。もし絶滅がなかったとしたら、地球上の生命の構成はまったく別のものになっていたでしょう。絶滅は系統を消し去り、生態学的な空白を生み出し、生態系のバランスを変化させます。

生態系とは、生物同士が、そして生物と物理的な環境とが相互作用しながら成り立っているシステムです。多くの種がいちどに消えると、そうした相互作用は大きく乱されます。食物連鎖は組み替わり、生息環境のはたらきも変わります。その結果、生き残ったグループに新しい「役割」が開かれることもあります。

このため、大量絶滅のあとに急速な進化の変化が起こることがあります。生き残った種が、かつて絶滅した種が担っていた役割を引き継いで広がっていくのです。長い時間のなかで見ると、それは地球上の生命の「見た目の構造」を大きく変えていきます。

生き残ることは「安定」を意味しない

生き残った種を「何かの意味でいちばん優れている」と考えたくなるかもしれませんが、進化はそんな単純な話ではありません。自然選択は、特定の環境での生存や繁殖を高める形質を有利にしますが、環境そのものは変わり続けます。ある状況では有利だった特徴が、別の状況では意味を持たなくなったり、むしろ不利になったりすることもあります。

進化生物学における「適応度(フィットネス)」とは、将来の世代に自分の遺伝子を残すうえで、その生物がどれだけよく生き残り、繁殖できるかを指します。これは、一般的な意味での強さや徳、優越性を意味する言葉ではありませんし、一度決まったら永遠に変わらない値でもありません。

このことは、どれほど「成功している」ように見える種でも、絶滅の可能性から逃れられない理由を説明してくれます。生き残りは常に条件付きであり、その条件は変わり得るのです。ある種が現在の生息地にうまく適応していても、環境が変化したり、資源が枯渇したり、新たな圧力が加わったりすれば、やはり脆さを抱えています。

地球の生物多様性のほとんどは、まだ知られていない

これほど大きな喪失が進行している一方で、地球上の生命はなお驚くべき多様性を保っています。地球には現在、約1兆種の生物が存在すると推定されていますが、そのうち記載されているのは、たった0.001%(1万分の1)にすぎません。

つまり、生命の大半はまだ名前もなく、科学的に記録されてもいないのです。生きている世界は、変化し続けているだけでなく、その多くがいまだ未踏で、よく理解されていません。

この事実は、絶滅の物語にもう一層の意味を加えます。ある系統は、「発見される前に」姿を消してしまうかもしれません。進化の歴史とは、化石やゲノム、現生生物からわかっていることだけでなく、ほとんど気づかれないまま消えていく、数えきれない枝分かれの物語でもあるのです。

地球生命のパラドックス

ここにはひとつのパラドックスがあります。絶滅は「当たり前」の現象でありながら、そのなかには規模が桁違いに大きい出来事──大量絶滅──も含まれています。種は常に生まれては消えていきますが、大量絶滅はその通常のパターンを激しく中断させます。これまで存在したほとんどの種はすでに絶滅していますが、それでも地球には現在、およそ1兆種もの生命が宿っている可能性があるのです。

生命は、同時にきわめて壊れやすく、そして驚くほど増え続ける存在でもあります。個々の種は永遠に戻らないかたちで消え去ることがありますが、途方もない時間スケールで見れば、進化は常に新しさと多様性、新たな生態学的関係を生み出し続けています。

絶滅を理解することで、生き残りを見る目も変わってきます。生き残ることは、最終的な「勝利」を意味するわけではありません。それは、絶えず変化する生命の歴史のなかで得られた、一時的な成功にすぎないのです。

そして、まさにこの点で、いまという時代は特別な意味を持ちます。私たちは、進化の壮大なパターンをただ眺めている観察者ではありません。ホロシーン絶滅のただなかで、人類そのものが「どの種が残り、どの種が消え、未来の世代がどのような生物圏を受け継ぐのか」を左右する力のひとつになっているのです。

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