気候変動と移動する生きものたち

平均気温が少し変わるだけで、生きものが生きていける場所には驚くほど大きな影響が出ます。年間平均気温が 3 ℃変化すると、温帯の気候帯はおよそ緯度で 300〜400 キロメートル、標高で約 500 メートル分だけ移動し得ます。つまり、多くの動植物が依存している条件はその場にとどまらず、好ましい環境そのものが地図の上を滑るように移動していくのです。

気候変動を理解するうえでこれはとてもわかりやすい見方です。単に「空気が暖かくなる」だけでなく、「生物が暮らせる条件そのものが別の場所へ移っていく」現象として捉えるのです。特定の気温範囲や水分パターン、季節のリズムに適応している生きものにとって、「動く気候」とは「動く的」を相手にすることを意味します。

なぜこれが重要なのかを理解するには、「天気」と「気候」の違いから考えるとわかりやすくなります。天気とは、今日の気温や雨、風、雲量といった、その日の大気の状態です。一方、気候とは、通常 30 年程度の期間で平均した、長期的なパターンです。単なる平均値だけでなく、気温や降水量、風、湿度、気圧などの「変動のしかた」も含まれます。

この長期的な視点が重要なのは、生きものは「ある一日の暑さや寒さ」に適応しているのではなく、「繰り返し現れるパターン」に適応しているからです。気候は、生命にとっての「背景となる環境」をかたちづくります。

より広い意味では、気候は大気圏、水圏、雪氷圏、岩石圏、生物圏を含む「気候システム」と結びついています。簡単に言えば、空気、水、氷、土地、生きものがすべてつながっているということです。これらが相互作用することで、その地域にどのような環境条件が生まれるのかが決まってきます。

なぜ気候帯は移動するのか

ある場所の気候は、緯度や経度、地形や標高、土地利用、近くにある海や湖とその海流など、多くの要因に左右されます。これらのうち、長い時間あまり変わらないものもあれば、より動的に変化しうるものもあります。

気候変動とは、地球規模または地域規模での気候の時間的な変化を指します。平均的な大気状態の変化や、その変動のしかたの変化を意味し、その対象となる時間スケールは数十年から数百万年にも及びます。こうした変化は、地球内部のプロセス、太陽放射の強さの変動といった外的要因、人間活動などによって引き起こされます。

最近の用法では、この語は主に、地表付近の平均気温の上昇、いわゆる地球温暖化を含む「現代の気候の変化」を指すことが多くなっています。最近の温暖化がとくに生物にとって重要なのは、「気温」が気候帯を定義するうえで主要な要素の一つだからです。

気候帯とは、長期的な条件に特徴がある地域のことで、一般に気温と降水量の組み合わせで説明されます。ケッペンの気候区分などの分類体系では、似た気候パターンをもつ地域をまとめてグループ化します。地図上では境界線が引かれていますが、自然界の気候はたいてい、急にガクンと変わるわけではなく、景観の中で少しずつ移り変わっていきます。

平均気温が上昇すると、こうした気候帯もまた移動していく傾向があります。温帯では、年間平均気温が 3 ℃変化すると、等温線が緯度でおよそ 300〜400 キロメートル、標高で約 500 メートル移動することに対応します。等温線とは、同じ気温の地点を結んだ線です。この線が動けば、多くの種にとって「ちょうどよい気候」の場所も一緒に動いてしまうのです。

種は高い場所や極地方へ向かわざるをえないかもしれない

気候帯が移動すると、生物種も標高の高い場所や、より高緯度(極地方側)の地域へ移動していくと考えられています。これは、気候パターンの変化にともなう、非常に直接的な生態学的帰結です。

緯度とは、ある場所が赤道からどれだけ北や南に離れているかを示すものです。極地方の方向へ移動するほど、一般にはより涼しい条件の地域に入っていきます。標高とは、海面からの高さです。山を登るほど、通常は気温が下がります。ある種が特定の気候に適応している場合、その慣れた範囲の中にとどまる一つの方法は、北半球なら北へ、南半球なら南へ、あるいはより高い場所へと移動していくことです。

特に注目すべきなのは、その「スケールの大きさ」です。年間平均気温が 3 ℃変化すると聞くと、日々の気温の上下と比べて一見ささやかに思えるかもしれません。しかし、気候が問題にするのは長期的な平均であり、その平均が数度変わるだけで、「適した条件がどこに分布しているか」という地理的なパターンは大きく描き変えられてしまいます。

生態系にとって、これは「移転」や「かき乱し」が起こりうることを意味します。ある地域の生物群集を支えてきた局所的な気候は、時間とともにその場から少しずつ離れていってしまうかもしれないのです。

「小さな」平均の変化は決して小さくない

平均気温という言葉は、あまりに抽象的で実感が湧かないことがあります。気候科学が長期平均を重視するのは、日々の天気の変動の陰に隠れてしまう「大きなシフト」をあぶり出せるからです。ある場所は、依然として寒い日も暑い日もあり、嵐もあり、季節変化も見られる一方で、その長期的な気候はじわじわと変わっていくことがあります。

よく言われるように、「気候は『予想されるもの』で、天気は『実際に起こるもの』」です。生きものは、その長期的な「予想」に応じて反応します。繰り返される季節パターンによって形づくられており、単発の出来事だけで決まるわけではありません。

もし年間平均気温の変化によって、気候帯が数百キロメートルも移動するなら、その影響は地理的に見ても実に劇的です。「快適な温度環境」の分布図は、もはや固定されたものではありません。かつて適していた場所が適しにくくなり、より極地方寄りの地域や高所が、かつての気候に似てくることもありえます。

気候・バイオーム・生きたシステム

気候区分は、しばしばバイオーム(生物群系)の区分と強く対応します。なぜなら、気候がその地域の生命を大きく左右するからです。バイオームとは、環境条件によってかたちづくられる大きな生態的まとまりのことです。気候は気温や降水パターンを強く支配しているため、どのような生物群集がその場所に成り立ちうるのかを決める主要な要因の一つになります。

このため、生物相の再分布は気候変動の重要な側面となります。「生物相(biota)」とは、ある地域に生息する生物全体を指す言葉です。気候帯が移動すれば、その条件に結びついていた生物もまた移動していく可能性があるのです。

より広く見れば、気候システム全体が、なぜこうした変化が地域全体に波及しうるのかを説明してくれます。気候は単なる空気の温度ではなく、大気・海洋・陸地・氷・生物の相互作用から成り立っています。一つの要素の変化が、他の要素に連鎖していくことがあるのです。

気候記録が示す時間を超えた変化

科学者たちは、現在の観測記録と、過去の気候の手がかりの両方を手がかりに気候を理解しています。近代の気候記録は、ここ数世紀にわたって行われてきた、温度計・気圧計・風速計などによる観測から得られます。1960 年代以降は、人工衛星の登場によって、海洋上や人の少ない地域も含め、地球規模で記録を集められるようになりました。

さらに時代をさかのぼるために、古気候学は氷床や年輪、堆積物、花粉、サンゴ、岩石などの「代替指標(プロキシ)」を用いて太古の気候を研究します。プロキシとは、直接の観測が存在しない過去の気候を復元するための間接的な手がかりのことです。

これらの記録から、地球の気候は過去にも変化してきたことがわかります。安定していた時期もあれば、大きく変わった時期もあります。ただし、現代の懸念は「気候が変わりうる」という事実そのものではありません。問題なのは、現在の温暖化が、生物が頼りにしてきた条件を急速に変化させている点にあります。

気候変動は「生命のための地図」が動くこと

このように見てみると、気候変動は単に「温度計の数値が変わる」話ではありません。それは「動き」の物語でもあります。もし等温線が温帯の景観を 300〜400 キロメートル横切って移動したり、山を 500 メートル分登るように移動したりするなら、種は慣れ親しんだ気候条件の中にとどまるために、その変化を追いかけざるをえないかもしれません。

つまり、気候変動は「温度」の問題であると同時に、「空間」の問題でもあるのです。問題は、単に条件が暖かくなるかどうかではなく、「これまでの条件がどこへ行ってしまうのか」にあります。

特定の気候範囲に強く結びついた生物にとって、それは地理との競争にもなり得ます。必要な環境が、山の上へ、極地方の方向へ、あるいはその両方へと移動してしまうかもしれないのです。その結果、地域全体で生態系の「組み替え」が起こり、生物が繁栄できる場所を決めてきた長期パターンが描き直されていきます。

そういう意味で、気候変動は「生命そのもののための地図」を動かしてしまう現象だと言えます。そして、いかにも控えめに見える平均気温のわずかな変化であっても、その地図を驚くほど遠くまで滑らせてしまうことがあるのです。

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