植物と光合成

植物はあまりにも身近なことをしているので、そのすごさを見過ごしてしまいがちです。それは「光から食べ物をつくる」ということ。太陽光のエネルギーを使って、多くの植物は二酸化炭素と水から糖をつくり、その過程で酸素を放出します。この一見シンプルなはたらきが「光合成」と呼ばれるものです。光合成があるからこそ、陸上の食物網の土台に植物がいる理由が説明でき、地球の生命が今のような姿になった理由も見えてきます。

芝生や庭の花から巨大な樹木まで、植物は地球でもっとも重要な「一次生産者」のひとつです。一次生産者とは、自分で有機物をつくり出し、他の生物を食べてエネルギーを得ているわけではない生き物のことです。多くの陸上生態系では、その役割を担っているのが植物です。植物は光エネルギーをとらえ、それを糖に変換します。その糖は植物自身の成長を支えるだけでなく、動物や菌類、その他おびただしい数の生物のいのちも支えるエネルギー源になります。

光合成は植物の細胞の中にある「葉緑体」と呼ばれる構造で行われます。ここが光エネルギーをとらえる場所です。葉緑体の内部にはクロロフィルという色素が含まれていて、多くの植物が緑色に見えるのはこのためです。クロロフィルは光を吸収する役割を担っています。

光合成全体を表す化学反応式は次のとおりです。

6 CO2 + 6 H2O → C6H12O6 + 6 O2

平たく言えば、「二酸化炭素と水が、光の助けを借りて糖と酸素に変えられる」ということです。つくられた糖はエネルギーを蓄えた「食べ物」の分子です。植物はこのエネルギーを使って生き、成長し、からだをつくります。酸素は大気中へ放出されます。

この仕組みは、生物圏の中でも最強クラスの「化学エンジン」のひとつです。緑色植物は、光合成を行う藻類やシアノバクテリア(ラン藻)とともに、地球の分子状酸素のかなりの部分を供給しています。同時に、地球上の多くの生態系を動かすエネルギー源となる糖をつくり出しています。

クロロフィルと葉緑体が重要な理由

ほとんどすべての生き物の食べ物になる

光合成について語るとき、必ずといってよいほど出てくる用語が「クロロフィル」と「葉緑体」です。

クロロフィルは光エネルギーをとらえるために使われる緑色の色素です。色素とは、特定の波長の光を吸収する性質をもつ物質のことです。植物では、このクロロフィルが光合成に必要なエネルギーを集める中心的な役割を担っています。

葉緑体は、クロロフィルを含む植物細胞内の特別な構造です。植物細胞には、葉緑体のほかにも水をたっぷり含む大きな液胞(中心液胞)や、主にセルロースからなる丈夫でしなやかな細胞壁など、特徴的なつくりがあります。その中でも、葉緑体はまさに光合成の中枢と言える場所です。

葉緑体の起源はとくに興味深いものです。もともとは光合成をしない細胞が、光合成を行うシアノバクテリアと共生関係を結んだことから始まりました。共生とは、異なる生物同士が密接な関係を結び、ともに生活することを指します。この古代のパートナーシップはやがて完全に一体化し、今の植物細胞の一部として受け継がれるようになりました。

植物のからだはエネルギー集約型の設計

植物は地球を変えた

多くの植物は多細胞生物であり、その細胞はさまざまな組織や器官に分化しています。こうした立体的な体のつくりは、環境中の資源を効率よく集めるのに役立っています。

根は土壌から水とミネラルを吸収します。茎は植物のからだを支えるとともに、水や合成された物質を運びます。葉は主な光合成の器官です。見た目が「葉っぱらしい」だけでなく、光エネルギーを集めるための広い面として働いています。

植物には「維管束組織」と呼ばれる組織もあり、その中には道管と師管が含まれます。これらは葉脈や茎にある、輸送に特化した組織です。道管は水やミネラルの輸送を、師管は糖など合成された物質の輸送を担います。光合成にはこうした内部輸送が欠かせません。光合成を行う組織には水が届かなければならず、そこでつくられた糖は植物の他の部分へ運ばれる必要があるからです。

食物網はここから始まる

光から栄養を作る

植物がつくる糖は、1本の植物だけを生かすためのものではありません。生態系全体を動かすエネルギー源でもあります。

多くの陸上生態系で、植物は一次生産者として食物網の土台を形づくっています。動物は植物を直接食べることもあれば、植物を食べた生物を食べることもあります。どちらにせよ、陸上の生態系をめぐるエネルギーの大部分は光合成から始まります。

そのため植物は、多くの生物の中のひとグループというだけではありません。しばしば、生息環境の物理的・構造的な中心的存在であり、地球上の多くのバイオーム(生物群系)は、そこに優勢な植生のタイプから名前を付けられています。たとえば草原(グラスランド)、サバンナ、熱帯雨林などです。

また、質量という観点から見ても植物は地球生命の大部分を占めています。植物は地球全体のバイオマスの約80%を担い、その量は炭素量にしておよそ450ギガトンと見積もられています。バイオマスとは、生きている物質の総質量のことです。この数字から、植物の生産力がいかに地球上の「生きている世界」の姿を形づくっているかがうかがえます。

光合成が地球の大気を変えた

光合成は生態系にエネルギーを供給しただけではありません。惑星そのものを作り変えました。

陸上植物や藻類による光合成は、ほとんどすべての生態系にとって、エネルギーと有機物の究極の源です。長い時間スケールで見ると、光合成は酸素のほとんどなかった初期地球の大気組成を大きく変化させてきました。酸素がない状態を「無酸素(アノキシック)」と言いますが、現在の大気中では酸素は約21%を占めています。

この変化は、生命にとって決定的な意味を持ちました。動物を含む多くの生物は「好気性」であり、酸素に依存して生きています。一方、酸素を必要としない生物は「嫌気性」と呼ばれ、そうした環境はむしろ限られた場所にしかありません。そういう意味でも、光合成は現代の多様な生命が繁栄できる条件をつくり出したと言えます。

このエピソードの大きなテーマは、まさにそのとおりです。「植物は地球を変えた」のです。光をとらえ酸素を放出するという能力は、地球規模で見ても、もっとも世界を変えてきた生物学的プロセスのひとつです。

すべての植物が「典型的な植物」ではない

植物の多くは光合成を行いますが、例外も存在します。一部の寄生植物はクロロフィルや光合成に関わる遺伝子を失っており、他の植物や菌類からエネルギーを得ています。

これは、「植物=いつも緑で太陽の光で生きている存在」とは限らないことを思い出させてくれます。光合成はほとんどの植物にとって基本となる生き方ですが、進化の過程でそこから大きく外れた、ユニークなグループも生まれてきたのです。

光合成と競争

光合成は光に依存しているため、植物どうしは光をめぐって激しく競い合うことがよくあります。光は光合成にとって不可欠な資源です。植物は葉を広げて他の植物に影を落とし、自分自身ができるだけ多くの光を浴びられるように、背を高くしたり成長を速めたりします。

水も同じくらい重要です。水は光合成反応式に出てくる原料のひとつだからです。根は、土壌中の水をできるだけ多く取り込もうと競い合います。ある植物は地下深くまで根を伸ばして深層の水を探し、別の植物は表土近くに浅く広がる根を張って、降ったばかりの雨水を素早く取り込みます。

ミネラルも成長と発達に欠かせない要素です。植物がとくに競い合う栄養素には、窒素・リン・カリウムなどがあります。光合成そのものは糖をつくり出しますが、植物は生きた組織をつくり維持するために、これらの追加資源も必要とします。

人間による植物利用のほとんどは光合成とつながっている

人間の暮らしは、光合成による生産力と深く結びついています。穀物、果物、野菜といった基本的な食料は古くから栽培されてきました。人は花を咲かせる被子植物に、直接的な食料として、あるいは家畜の飼料を通じて間接的に依存しています。

植物はまた、日常生活や産業で使われる多くの非食用製品の源でもあります。木材、紙、段ボール、綿や亜麻などの繊維、精油、樹脂、天然色素、コルク、ゴム、ラテックス、インク、ガムなどは、いずれも植物由来です。再生可能な植物燃料としては、薪、泥炭、その他のバイオ燃料も挙げられます。

さらに多くの医薬品も植物から得られています。アスピリン、タキソール、モルヒネ、キニーネ、レセルピン、コルヒチン、ジギタリス、ビンクリスチンなど、数百種類におよぶ薬や生理活性物質が植物由来です。

これらすべての利用は、直接的・間接的を問わず、植物が光エネルギーを化学エネルギーと生体物質に変換する能力に支えられています。

身近な「奇跡」が重要である理由

植物は、動かずにそこにいる飾りのような存在、あるいは「背景の自然」に見えるかもしれません。しかし光合成を知ると、その本当の重要性が見えてきます。植物はエネルギーの変換機であり、酸素の供給源であり、生息環境の建設者であり、多くの陸上生態系の土台なのです。

葉緑体のクロロフィルが光をとらえ、つくられた糖が植物体内を巡り、その過程で酸素が大気中へ送り出される──光合成は、植物細胞レベルの小さなスケールと、気候や生態系、生命全体という惑星規模のスケールをつなぐプロセスです。

ほとんどの生態系に食物を供給し、酸素に富んだ大気をつくり上げたプロセスほど重要なものは、そう多くありません。植物は単に「世界の中で」育っているのではなく、光合成を通じて、私たちが知っているこの世界そのものを形づくってきたのです。

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