クマムシを探そう:屋根の上の野生動物たち

クマムシ(英語名: Tardigrade、別名ウォーターベアやコケムシ)は、私たちの身の回りにひそんでいる、もっとも意外な動物のひとつです。成体でも通常は長さおよそ0.5ミリほどの、ごく小さな8本脚の動物で、ずんぐりした体とカギ爪の生えた脚を持ちます。その顕微鏡的なサイズにもかかわらず、驚異的なタフさと独特のかわいらしさ、そして人が想像もしない場所から見つかることから有名になりました。

しかも、彼らを探すのに最適な場所は、遠いジャングルでも深海でもありません。家の壁や屋根に生えている、ごく普通のコケや地衣類です。つまり、あなたの頭上にある小さな緑の塊は、丸ごとひとつのミニチュアな世界になっているかもしれないのです。

クマムシは、山頂や熱帯雨林、深海、南極まで、地球の生物圏のじつに広い環境に分布しています。ただし、日常の観察という点では、湿った陸上環境がとくに重要です。多くの種は、コケや地衣類、ゼニゴケ類、土壌、落ち葉などの場所にすんでいます。

ここで屋根が面白くなってきます。屋根瓦や石材、雨どいに生えたコケや地衣類には、クマムシのにぎやかな集団がくらしていることがあります。そこでは雨や露のあとに薄い水の膜ができ、こうした湿った「ミクロな生息場所」にクマムシがとくに多く見られるのです。

しかも、わずかにいる程度ではありません。土壌1平方メートルあたりに最大30万匹、コケの上では1平方メートルあたり200万匹を超える密度で見つかることもあります。1平方メートルは小さなテーブルほどの大きさなので、屋根のコケが少し生えているだけでも、驚くほど多くの微小な動物が身をひそめている可能性があるのです。

「目で見える」ほど大きい極小動物

クマムシの魅力のひとつは、高価な研究機器の向こう側の存在ではないことです。コケや地衣類から簡単に採集でき、低倍率の顕微鏡で観察できます。そのおかげで、学生やアマチュア研究者にも手の届く生き物なのです。

低倍率の顕微鏡とは、対象を見るのに極端な高倍率を必要としないタイプの顕微鏡を指します。クマムシはしばしば、その程度の倍率で十分見える大きさなので、身近な環境にひそむ「見えない生命」を探りたい人にとって、実用的でねらいやすい対象になります。

クマムシの体はとても特徴的です。4対、つまり8本の中空で関節のない脚を持ち、それぞれの脚の先にはカギ爪がついています。クマムシの種によって、カギ爪はふつう4〜8本あり、ときには粘着パッドのような構造に変化していることもあります。彼らの歩き方は「ウォーターベア(=水のクマ)」という愛称の由来にもなりました。そののそのそとした歩きぶりが、観察者にはクマの歩き方を連想させたのです。

1滴の水で「ウォーターベア」を目覚めさせる

屋根のコケにすむクマムシのおどろくべき点のひとつは、乾いたサンプルにも、死んでしまったわけではなく、眠った状態で残っている個体がいることです。陸上や淡水にすむクマムシは、水分がなくなると代謝を止め、「クリプトビオシス」と呼ばれる休眠状態に入ることができます。

クリプトビオシスとは、代謝活動がほぼ完全に止まった極限的な休眠状態です。乾燥にさらされると、クマムシは脚を体に引き寄せ、「タル」と呼ばれる乾燥した嚢状の構造をつくります。タルとは、環境が乾燥しすぎたときにクマムシがとる、丸まって凝縮した休眠形態のことです。

だからこそ、乾いたコケや地衣類のサンプルを顕微鏡で観察するときはワクワクするのです。もしクマムシがいて、しかもこの休眠状態にあるなら、少量の水を加えるだけで再び動き出すかもしれません。実際問題として、そこにいないように見えた、あるいは死んでいるように見えた個体が、給水によって活動を再開するのです。

この能力が、クマムシを有名にした大きな理由です。タルの状態では、数年間も水も食べ物もなしで生き延びられ、環境ストレスにも非常に強くなります。ただし、それは「極限環境生物」のように、過酷な環境の中で積極的に生活しているという意味ではありません。そうした条件をしのぐために、一時的に自らを守るカプセルのような状態へと切り替えているのです。

シスト、卵、タルとは何か

クマムシが長い距離を移動できると聞くと、よく話題にのぼるのが「卵」「シスト」「タル」という3つの言葉です。

卵は次の世代を生み出すものです。種によって、クマムシの卵は球形〜楕円形で、表面にコブやピラミッド状の突起、ビンのような形の構造など、きわめて凝った装飾を持つものもあります。水中にすむ種では、卵を基質に貼り付けたり、脱皮したあとのクチクラ(外皮)の中に残したりすることがあり、陸上種の卵は乾燥に強い殻を備えています。

シストは生活環のなかの防御形態です。クマムシが厳しい条件をやり過ごすのを助ける、丈夫なステージといえます。

タルは乾燥によってつくられる、凝縮したクリプトビオシス形態です。この状態の個体は強く乾燥しており、活動を停止しています。

これらのステージが重要なのは、クマムシの卵・シスト・タルが、いずれもとても小さく、壊れにくいために長距離輸送を可能にしているからです。ほかの動物の足に付着したり、風に乗せられたりして運ばれます。そのため、ある屋根のコケは、生物学的に孤立した世界である必要はありません。どこか別の場所から、目に見えない「ヒッチハイカー」が運ばれてくるのです。

風に乗る小さな旅人たち

顕微鏡サイズの生き物が「ヒッチハイク」するというアイデアは、空想めいて聞こえるかもしれません。しかしクマムシは、そのような分散にうってつけの性質を持っています。丈夫な卵と休眠形態はいずれも小さく、非常にタフです。風に飛ばされることもあれば、動物が気づかないうちに足に付けて運ぶこともあります。

こうした事情が、クマムシというグループ全体が「汎存的(コスモポリタン)」になっている理由の一端を説明します。つまり、世界の多くの地域に分布しているのです。個々の種はもっと限られたニッチに特化している場合もありますが、門レベルで見ると、陸上・淡水・海洋の環境すべてを地球規模で占めています。

屋根のコケを観察する人にとっては、そこにちょっとしたドラマが加わります。その小さなサンプルの中のクマムシたちは、意外なほど長い距離を移動できる、「ミニチュアの旅人」の系統に属しているかもしれないのです。

コケの中で、クマムシは何をしているのか

クマムシは、眠って旅をしているだけではありません。エサを食べ、はい回り、環境を感じ取り、繁殖もします。

クマムシは、動物や植物の細胞、あるいはデトリタス(死んだ有機物)から体液を吸い取ることでエサをとります。そのために、アラゴナイトという鉱物でできた2本のスタイレット(針状構造)を使ってエサに穴を開け、咽頭の筋肉で液体を腸にくみ上げます。

彼らの動きは、拮抗するペアの筋肉で脚を前後に動かすことで生まれます。カギ爪は、移動中に表面をつかんで脚がすべり落ちるのを防ぐ役目を果たしています。そのどこか不器用でよちよちした歩き方が、クマムシが多くの人に愛される理由のひとつでもあります。

頭部には、脳と眼点(アイスポット)、さらにシリやクラバエと呼ばれる感覚器官があります。これらは、周囲の環境情報をとらえるのに役立っていると考えられています。驚くべきことに、少なくとも1種(Dactylobiotus dispar)では、古典的条件づけによる学習能力が示されています。この種は、不快な刺激と結びつけられた青い光を見せられると、防御的なタル状態に丸まるようになるのです。

ありふれた環境にひそむ、並外れたタフさ

屋根で見つかるクマムシの種がそこにいるのは、屋根が宇宙空間や深海のような「超」極限環境だからではありません。ただし実際の屋根は、乾燥しやすく、日ざしにさらされ、環境条件の変動が大きい場所でもあります。そのため、クマムシの性質と相性がよいのです。

水分がなくなると、陸上や淡水のクマムシはクリプトビオシスに入って身を守ることができます。タルの状態になると、極端な高温や低温、酸素の欠乏、真空、放射線、高圧など、さまざまなストレスに対して非常に強くなります。この耐性の高さが、クマムシに「タフな生き物」という大きな評判をもたらしました。

かつて科学者たちは、乾燥状態での長期生存は主にトレハロースという糖の働きによると考えていました。しかし、クマムシはそれほど多くのトレハロースを作らないことがわかっています。その代わり、乾燥に応じて特殊なタンパク質を合成します。その一部はクマムシ特有のタンパク質で、細胞膜を保護したり、細胞質を覆うガラス状のマトリックスをつくって乾燥から守ったりしている可能性があります。

こうした目に見えない分子レベルの防御機構があるからこそ、屋根のコケのカサカサのかたまりの中の小さな動物が、いったん乾ききっても、水が戻ってくれば再び動き出せるのです。

身近な「野生」と、尽きない魅力

クマムシは、顕微鏡で見る生き物としては異例の人気者になっています。手軽に観察でき、見た目は奇妙で、動物界でも屈指のドラマチックな能力――完全に干からびても生き延びる力――を備えているからです。適切な休眠状態にある個体なら、顕微鏡スライドの上で、ほんの少しの水をたらすだけでよみがえらせることもできます。

こうした要素がそろっているため、クマムシは好奇心あふれるビギナーにぴったりの観察対象です。遠くへ出かける必要はありません。壁や屋根から少しコケや地衣類を集め、低倍率の顕微鏡と少しの根気さえあれば、まったく知られていなかった小さな生態系が姿をあらわします。

そう考えてみると、屋根は単なる建物の一部ではありません。そこは、顕微鏡サイズの動物たちや休眠中の旅人、卵や高密度の集団がひしめく生息地でもあるのです。あなたの屋根にすむ野生動物はとても小さいかもしれませんが、その世界は決して退屈とはいえません。

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